カブトムシ
ラーメン二郎新潟店へ行った。
半年ぶりだった。
普段奥さんと行動するとなるとあまり行く機会がないラーメン二郎。1人で行動できるタイミングがあっても営業時間の関係からなかなか行けなかったりする。
僕はラーメン二郎が好きだ。
2年前の夏
ラーメン二郎の匂い立ち込める中、黄色い灯にたむろする二郎好き達を見て、僕の頭にaikoの名曲が浮かんだ。
甘い匂いに
誘われた私は
カブトムシ
そう。それくらい二郎の支配域は広く、店によっては駅を降りた瞬間その匂いが漂っている駅もあるほどだ。
それに誘われた男たちは「普通の人とは違う食の過ごし方」にイキりながらも中毒性のあるラーメンに吸い寄せられていく。
僕はラーメン二郎へ行くと必ずこの歌詞をツイートしている。
僕がまだ大学4年の頃だったか
先輩とスコセッシ監督のローリングストーンズ映画「Shine A Light」を観に行った時だった。
観終わって夕食を何にするか話している中で先輩の先導でラーメン二郎へ行くことになった。それとともに「ラーメン二郎」とは何かの説明があった。
その説明を聞いて全くイメージが掴めなかった。当時の僕のラーメンの視野は恐ろしいほど狭く、雰囲気だけグルメを装いながら、実のところ食に対するリテラシーも低かった。
まずすごい行列だ。こんなに並んでまでラーメンを食べたことは当時の僕にはなかった。
なんとか店内に入り、食券を買って店内へ。先輩とは席が離れてしまった。2人組でも離れてしまうなんて…という点も驚愕だった。
少しすると店員が僕に「ニンニクは?」と聞いてきた。
この質問はトッピングの加減をコールするための合言葉であるが、これに「yes/no」で答えてしまうのは素人の定番である。慣れてきた今でこそ「チッ…素人め」と思えるが、無論この時の僕は
「え…あ…はい」
と答えてしまうのだった。
また僕は食券の時点から負けが確定しており、ラーメン二郎のルールも何も知らない僕からすると「ラーメン小」は「小盛りのラーメン」であり、中盛りは普通盛りだと思っていた。
つまり僕は二郎のビギナーズらしすぎる出会いとして、想像を超える暴力的なラーメンが出てきてむせび泣きながら食うという経験をし、もう2度と会うことはないあのラーメンに別れを告げた川崎の夜だった。
つもりだった…
数年後
僕がJOHNNYPARKを結成すると
ラーメン好きなドラムの川村商店が僕や若を率いてラーメン屋へ行く機会も増えた。
そうするとまたラーメン二郎へと行く流れになった。僕は昔ラーメン二郎に受けたショックから不可解な気持ちはありつつも、あの豪快なラーメンを食べることへの憧れも少なからずあった。前回の失敗を踏まえて注文を済ませ、独特のコールも心の中で何度もシュミレーションした。
うまい…
その時初めて僕はラーメン二郎の美味さを確信した。それからというもの、メンバーでいろんな二郎へと行くこととなり、さらには得意のオタク気質で1人各店舗に奔走するまでになってしまった。
川崎、相模大野、歌舞伎町、小滝橋通り、立川、府中、仙川、中山、上野毛、亀戸、神保町、千住大橋、小岩、松戸、環七一之江、環七新代田、池袋東口、ひばりヶ丘、桜台、新潟、仙台…
行っている人はもっと行っているだろう。それはもちろんそうなんだけどとにかく行ける範囲は行ってみたいコレクター気質が発動してしまっている僕としてはこれは治ることがないのかもしれない。
現在はなかなか二郎へ行く機会が減ってしまったが、数年前に新潟に開店してくれたおかげで普段から行くことができる。
二郎というラーメンはアトラクションのようなもので、並び始めて食い終わるまでが一種の客も参加型の共同作業のような節がある。ルールというのは厳密にはそこまで厳しくないが、フランス料理並みにマナーが重要で、まるで客が店の流れをいかにスムーズにするか、いかにその1ピースとなれたかが重要かのような空間だ。それも踏まえて熟練の二郎好きはリテラシーが高くなっていく。
それを
「横柄でガンコなラーメン屋」
とするか
客参加型の協力で成り立つ
「そういうアトラクションラーメン」
とするか
それはそれぞれが判断すればよくて
嫌ならほっといてくれよ。
ということだ
そんな戦場で屈折した楽しみ方が板についた僕には新潟店はある種世間に迎合した作りで拍子抜けすることがある。
新潟店には二郎では極めて珍しくテーブル席がある。新潟には1人でラーメンに行く文化が薄いせいもあるだろう。
テーブル席が離れた位置にあることでカウンターで大声で会話する馬鹿な学生も減るのでこちらとしても名案だと思う。
そんな新潟店に久しぶりに行くと
店外には行列なし。ガッツポーズだ。
店内に5人ほど並んでいる程度だった。
中に入ると元気よくいらっしゃいませ
そして見慣れない女性ホールスタッフがいた。
新潟店は色札ではなく紙の食券を使用する
通常ならその色札を中の店員に見せて麺量を伝え、並んでいる段階からその量を茹で始め、席に着く頃にはラーメンが仕上がるようになっているが、新潟店は紙のためホールスタッフがそれを集めながら食券に書き込んでいく
そしてトッピングもそこで言う。
ラーメンの作り手から「ニンニクは?」
と聞かれてトッピングをコールするという楽しみが無いのだ。
そして新潟店は先にコールしておくせいか、コールが通っていないことが多かった。
「あれ、野菜と麺少なめって言ったよな…」
ということがある。
しかしこの女性スタッフはテキパキとその点を整理している…
「こんなの新潟二郎じゃない!ちゃんとしてるじゃん!」
そういった思いもあった。
通常は麺量を伝える際に言うはずの「少なめ希望」も
「あ、トッピングコール時に聞きますんで」と冷たく返す。二郎だ…!この冷たさ…新潟二郎も二郎っぽくなってきたぜヒャッホウ。
頭はおかしくなっていき、二郎脳になっていく
新潟店はマシマシのマシ量が少ない。
馬鹿学生が「マシマシを頼む」ということをしてイキリたいがためにマシマシを頼んで残すことが多いから減らしたのだろう(立川のヤサイコール時より少ない)、新潟のネット世代の学生はラーメン二郎への憧れが強いので「俺知ってるぞ!」とやりたいのだろう。
並んでいると僕の後ろにはカップルがテーブル席でラーメンを待っていた。
「ニンニクヤサイマシマシアブラカラメのお客様〜」
お、イキってマシマシか…どんなもんだ?
と振り返って見るとやはりそこまで多くないがやはりモリモリの野菜がそびえ立っていた。
すると男は
「カラメって醤油のことなんだぜ?知ってた?」
「見て見て。二郎タワーwwwパシャリ」
う
る
せ
え
し
ん
で
く
れ
まあ僕は心が狭いのでこういう客がいると発狂しそうになる。これ以上何も言うまい。今日も平和である。
僕の番になってラーメンが来た。
今日のラーメンは当たりだ。
豚も染みて塩辛すぎず、柔らかく、
スープも適度に乳化して完璧…
うまい…
至福の時を過ごした。
新潟二郎はまだまだ進化している
行列もろくに作れない新潟に
田舎のイキリ学生達に
これからも冷たい言葉で規律を与えていって欲しい。
以上レポっす。
クソして寝る。