陶芸
奥さんの元職場の女性の先輩が新潟に遊びに来るという。奥さんは旅館をおさえて一緒に泊まるというので、僕はその日1人で気ままに過ごそうかなどと考えていた。
しかし
「旅館のご飯も美味しそうだし、先輩もせっかくだしと言っているから一緒にどう?」
先輩は昨年にも新潟に来てくれていて、その際に手厚く対応したのもあり、また立場上その形を快く提案してくれた。
そんな話になり、部屋内にしきりもあるのでと一緒に泊まることになった。
温泉旅館ではめずらしく大浴場にドライサウナがあるという設備もまた僕の足を前に進ませる要因になった。
旅館はとても過ごしやすく、サウナも客入りの割に空いており、先輩もまたコミュ力のとても高い方なので久しぶりにリフレッシュさせてもらった。さて翌日は新潟を観光、そのようなスケジュールだ。
奥さんにスケジュールを聞くと
「陶芸教室に申し込んである」
とのこと。
僕の心には暗雲が立ち込めた。
僕は発想力には自信があるが、手先は不器用だ。恥をかきたくなかった。
僕は陶芸からすぐに連想した
古風な公房で作務衣を着た老人が、申し込んだ2〜3組を相手に「素人には一聞で理解不可能な説明」をした後ろくろを回させる。
地方の老人には口が悪く、なぜか自分ができることを他人ができないと喜び、横柄にそれを笑い、晒しあげる人が一定数いる。
こういう奴が違法なエロ動画の架空請求に騙されるのだと信じたい。
職人は擦り寄り上手な女性参加者に付きっきりでろくなアドバイスはくれず、僕みたいな不器用男性はテレビの芸人のようにすぐにグシャアッ…となり、職人はそれを「だからこうしちゃダメだと言ったろうに」と叱責した上晒し者にしガハハと笑う。
そんな絵が一瞬で頭に浮かび、憂鬱になった。
旅館のチェックアウトを済ませた頃
陶芸の予約まであまり時間がなく、道路の状況によっては遅刻の可能性が高かった。
僕は戦慄した。
もし陶芸の職人が想像通りの老人ならば、このこともいじってくるに違いない。
トイレも我慢して急いで現地へと向かうことにした。しかし道は混雑し、数分の遅れは確定した状態で近づいていった。
到着すると、想像とは大きく違う「アトリエ」がそこにはあった。
職人さんは30代の優しげな男性で、作務衣ではなくオーシバルのボーダーカットソーに白いエプロンをしたオシャレな方だった。
店内は若者が通うカフェのようにナチュラルでお洒落な空気。おだやかで優しく、僕の想像とここでも大きい乖離を見せた。
僕は自分の想像に別れを告げ、心の中で想像した内容に関して申し訳なく思った。
僕は皿を作りたかったが、皿は陶芸体験としては簡単すぎるとのことで、今回はどんぶりを作ることに。
陶芸体験がスタートすると職人さんがガイドしながら教えてくれるため、テレビの芸人のようにグシャアッ…となることはまずなかった。
むしろグシャアッ…とする方が難しい気がした。テレビの演出になんとなく不信感を感じつつ、また難しさもしっかり感じつつ、僕のどんぶりは無事完成。
数ヶ月後に焼き上がるのだが、素敵な空間で初めての陶芸をできたことを嬉しく思った。
俗世にはまだまだ楽しいことがあるな
そう思った休日だった。